プロレスリング散空抱地 〜人類選抜戦〜

 ボイルドジャッカスの『グラントリノ』が流れて入場口から鮮やかな金髪の男が出てくる。
 リングアナ「184センチ、114キロ。宮門我意」
 金色のシャワーを浴びるおなじみのパフォーマンスをしてから宮門我意がリングに上がる。
 メリーインペインの『ロッキングチェアー』が流れて長身の男が出てくる。
 リングアナ「192センチ、93キロ。菅原寛介」
 菅原が雄たけびを上げると同時に背後で赤い花火が噴き出す。
 菅原寛介がリングに上がる。
 リングアナ「これより宮門我意対菅原寛介のシングルマッチを行います」
 ゴングが鳴る。
 リング上の両者が距離を縮めていく。
 アナウンサー「中野さん。大丈夫ですか?」
 解説者「ああっ。くそっ。すまない」解説者が水を飲む。
 先に宮門が仕掛ける。菅原の胴体に飛びついて押し込んでいく。
 菅原は押されながら腰を左右に振って振りほどこうとする。
 宮門は右手を菅原の膝の裏に差し込んで倒そうとするが、振りほどかれてコーナーポストに背中を打ちつける。
 菅原は宮門を睨みながらリング中央へ戻る。宮門が立ち上がる。
 宮門がじりじりと距離を詰めていく。飛び込んで菅原の体を掴み、至近距離からエルボーを撃つ。
 エルボーは菅原の顎にヒットし、菅原はロープまで飛んで跳ね返ってくる。
 宮門は跳ね返ってきた菅原と体を入れ替えて、リング中央で立ち止まって振り返った菅原にローリングエルボーを撃ち込む。どよめきが起こる。
 後退する菅原をさらに追いかけて、ロープに当たる直前に追撃のジャンピングエルボーを撃ち込む。
 アナウンサー「宮門我意は自己紹介で自分は創世の日に生まれた存在なのだと語りました」
 菅原はロープに当たってから緩やかに跳ね返り、初めに膝をついてから上体をマットに打ちつける。
 解説者「宮門我意という男は俺が今までに見てきたどんなバカより途方もないが、奴の持つ技術には敬意を払わずにはいられない。並みのハードワークではこの領域まで到達することはできなかったはずだ」
 宮門がカバーに行く。
 レフェリー「ワン、」菅原すぐさま返す。
 解説者「こいつを見て人々が“ああ。あいつはバカだ”というのは間違いじゃない。だが、こいつはおそらく長い間誰ともツルまずに孤独の中で自分を高みへと導いてきたのだろう。こいつ程の領域に一瞬でも立てる人間は数少ない」
 菅原立ち上がり、宮門の腕を取って一本背負いを決める。宮門の背中がマットに衝突して激しい音を立てる。
 アナウンサー「菅原寛介はその数少ない人間の内のひとりかもしれません」
 菅原は一本背負いの勢いに乗じてカバーする。
 レフェリー「ワン、ツ」宮門返す。
 解説者「菅原のこれまでの戦績は0勝1敗とぱっとしないが、散空抱地開幕戦で腕十字を極めた野上を持ち上げてマットに叩きつけるなど、驚異的なパワーを見せつけた。奴も間違いなくこのリングで侮れないアスリートの一人だろう」
 立ち上がった宮門に菅原がアッパーカットを撃つ。
 続けざまに大きくクローズラインを放つが、宮門は掻い潜り、ローキック。
 菅原がすぐさま頭突きを返す。
 宮門はよろめくが踏ん張って耐える。菅原が足払いで宮門を倒すが、宮門が菅原の足にしがみついて回転して菅原を倒す。そして、上になって菅原の顔にエルボーを落としていく。
 宮門は立ち上がってロープに走り、跳ね返ってきてジャンプして倒れている菅原の腹に自らの巨体の腹を激しく打ちつける。
 菅原の体は衝撃でくの字に曲がる。
 アナウンサー「カバーに行くでしょうか」
 しかし、宮門はカバーには行かず、腕を取って腕十字を掛ける。ぎりぎりと締め上げ、菅原はたまらずタップする。レフェリーが試合を止めてゴングが鳴る。
 リングアナ「勝者。宮門我意」観客微妙な反応。
 解説者「カバーではなく関節技を掛けにいったのが好判断だったな。一瞬にして勝利を手中にした」
 菅原寛介が無念そうな表情でリングを降りる。
 宮門我意がレフェリーに手を上げられ、得意顔で勝ち名乗りを受ける。
 鮮やかに垂れた金髪から鋭い眼光が覗いている。
 溶暗。






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