朱雀哉眼インタビュー

 今回は、散空抱地初回で華々しいデビューを飾り、タッグ戦目下2連勝中のオールラウンダー、朱雀哉眼選手にお話を伺うことができた。
 孤高の雰囲気漂う朱雀選手だけに、今回のインタビューに成功したことは我々散空抱地スタッフの快挙である。
 散空抱地初回で見せた怒涛のフィニッシュの裏側や、これまでベールに包まれていた朱雀選手の経歴が明かされるなど、散空抱地ファン必見の内容となっている。



 ―本日はお忙しい中お時間を取っていただき、まことにありがとうございます。


 朱雀選手 いえ、構いませんよ。これぐらいのことはしなくてはならないと思っています。

 
 ―早速ですが、散空抱地初回のタッグ戦であなたが見せたフィニッシュまでの怒涛の攻撃は全世界に衝撃を与えました。


 朱雀選手 あれは千里眼と呼ばれています。千里眼の本来の意味にはそぐわないんですよね。実は、あれが発動している間の記憶はないんですよ。
 おそらく、無意識の状態になることで、今まで体に叩き込んできた戦闘用の技術が無理なく自然な形で引き出されるのではないかと考えているのですが。
 しかし、発動をコントロールすることができない上に、限界まで消耗した状態で意識が戻るので、俺としては怖くてしょうがないですけどね。


 ―率直に言って、あなたの経歴はベールに包まれています。一体どのようにして格闘術を今のレベルにまで引き上げたのでしょう。


 朱雀選手 俺は生まれたほとんど次の瞬間から、当時、地球プロレスでヒールとして活躍していたミステリアスマッスルが、戦闘術の英才教育と銘打って立ち上げたマッスルファンクションに預けられました。
 マッスルファンクションは完全住み込み制で、入会金や会費のようなものもなかったので、体裁の良い子供の捨て場所としても機能していたんですよ。
 以来、ムエタイレスリング、サンボなどといったあらゆる格闘術を叩き込まれ、22歳の時にミステリアスマッスルが婦女暴行容疑で逮捕されるまでの間、戦闘のスペシャリストになる為の鍛錬を続けていました。


 ―冤罪説も未だ根強いあの事件ですね。


 朱雀選手 残念ですけど、あの人は女性に関してはかなりだらしなかったですよ。俺が真相を知っているというわけではないですけど。
 ただ、どこかで言われていたように、自分だけ遊び呆けて格闘術の訓練をインストラクターに任せきりしていたということはないですよ。本気で戦闘のスペシャリストを育て上げたいと考えていたようですし、面倒見も良かったです。
 俺はマッスルファンクションの最高傑作として地球プロレスから売り出される予定でしたが、19歳の時に世界王座が廃止されて地球プロレスそのものが瓦解した為に、行き場所を失いました。
 将来の保障もないままにトレーニングはそれからも続けていましたが、3年後にミステリアスマッスルが逮捕されて、ほどなくマッスルファンクションが停止しました。ファンクション存続運動もなくはありませんでしたが、地球プロレスが瓦解した時点で半ばその存在意義を失っていましたから。
 俺は培った技術を振るう為にストリートファイトやクラブの小さなショーで闘い続けましたが、どれも物足りなく、満たされることのない日々をこの4年間、送ってきました。
 ですから、雅婁馬隆作が新たなプロレスを立ち上げてくれたことには本当に感謝しているんですよ。
 おかげで俺は人生のすべてをその為に費やした力を遺憾なく発揮することができますからね。
 雅婁馬が犯した罪のことは知っています。でも、悪いけど俺はそんなことはどうでもいい。
 闘うために生きてきました。生きるために闘うのではなくね。


 ―貴重なお話をありがとうございます。マッスルファンクションは長らくプロレスファンのみならず社会全体にとって大きな注目の的でした。
 ファンクションの合法性に異議を唱えるものも少なくない中、内部情報は徹底的に秘匿され、ミステリアスマッスル氏の小児性愛疑惑や、虐待死疑惑が連日週刊誌上を賑わせていました。捜査機関による査察が検討されていた矢先にミステリアスマッスル氏が個人的な容疑で逮捕されて、ファンクションは停止し、その後より大きな社会的変動が起こった為にマッスルファンクションを巡る騒動はなし崩し的に収束しました。
 私の友人のジャーナリストはこの4年間、ファンクション出身者を追い続けていましたが、誰ひとり消息が掴めないと嘆いていました。
 しかし、あなたが今ここにいるのですね。


 朱雀選手 実は、あの阿杜未森もマッスルファンクションに在籍していたことがあるんですよ。

 
 ―あの阿杜選手がですか?


 朱雀選手 ええ。俺のことを知らなかったような顔をしていますが。それとも、本当に忘れてるのかな。些細なことでよく泣いていましたけど、今では見違えるほど強くなっていますね。あそこまで強くなるとは思っていなかったので、驚いています。

 
 ―阿杜選手といえば前回の散空抱地で朱雀選手に同盟を持ちかけていましたね。

 
 朱雀選手 彼がどういうつもりなのかはわからないですけど、面白そうなのでしばらくは楽しく見守っていようと思っています。


 ―話は変わりますが、試合がない時の過ごし方をお聞きしてもよろしいですか。


 朱雀選手 大体は練習していますよ。水曜日に試合がありますね。これまでに俺は第1回と第3回のメインイベントでタッグ戦を闘いました。1回目は現地でいきなり試合を組まれましたが、第3回の時は第2回が終わった時点で聞かされていたので、計画的に練習することができました。基本的にロードワークと筋トレは欠かさないのですが、今はトレーナーを雇ってミット打ちもしています。似た体格と技術を持ったトレーニングパートナーがいれば、実戦形式の練習の中で様々な技を試すことができるのですが、全てが望むようになるとは考えていません。
 マッスルファンクションは市が買い取ってスポーツセンターとして運営していましたが、雅婁馬隆作がまた買い戻して、練習場所として提供してくれています。
 トレーナーを雇ったのは、一人で練習していると際限なく続けてしまう為に体の疲労が度を超すことを避ける為もあるのですが、疲労はハードな練習を続けた時に来ますが、ハードな練習を連日続けた後にある日突然ハードではない練習をした時に最も訪れるものだと感じてもいるので、意識して常に体に負荷を掛けるようにしています。


 ―それだけお忙しいと、テレビなどを見る時間もないのではないですか?


 朱雀選手 そんなことはないですよ。『名探偵モンク』はお気に入りのドラマです。ハロルド・クレンショーにはいつも参らされていますよ(笑)。

 
 ―朱雀選手と『名探偵モンク』とは意外な組み合わせですね。 

 
 朱雀選手 そうですか?ファンクション時代にはテレビを見ることもなかったので、自由を感じています。
 

 ―ところで、先ほどあなたは散空抱地を立ち上げてくれた雅婁馬隆作に感謝しているといいました。
 しかし、これまでの雅婁馬の口ぶりからすると、このことを長く続けるとは思えません。
 優秀な人間を選別した後はそれ以外の何もかもを一掃して“その後の世界”に移行するつもりなのではないでしょうか。 

 
 朱雀選手 ええ。でも、いいんです。先のことは考えていません。


 ―では、最後に、これを見ている散空抱地ファンのみなさんにメッセージをお願いします。


 朱雀選手 俺が散空抱地で一番初めに言ったことを覚えていますか?


 ―ええ。

 
 朱雀選手 俺からあんたらに対して言うことは特にないです。これでいいですか?
 

 ―ええ。ありがとうございました。